娘が焼死した父親の遺品整理

私は遺品整理をいつものように依頼され、見積もりをとるために現場に足を運んだのですが、指定されたマンションの待ち合わせした場所の入り口にたち、12階建ての建物を見るなり、私は何でだと呟いていたのです。

それは、部屋の窓の周囲が真っ黒になっているのが見え、もしかして火事で焼死でもしたのかと不安な気持ちになりながら、待ち合わせの当事者である依頼主の到着を待っていたら、白髪の会社員ふうの男性でした。

このたびはご愁傷様ですと私が言いかけたら、相手から本日はお世話になりますと言って頭を下げた依頼者の目にはじんわりと涙がみえ、娘を無くした父親の悲しみと困惑の色が浮かんでいるのがわかりました。

きっと大変な現場なのだろうと直感した通り、部屋の中をのぞくと火事で辺り一面、焼け焦がれて真っ黒になっており、壁に触れることすらできない状況で、火事特有の臭いがまだ残っているので、見積もりをしたくても全てがススに覆われているので、形見分けや遺品整理など出来るような状態ではないのですが、そんなことは御構いなしに依頼主の父親は目の前にあるものを仕分けし始め、呻くような声で叫んでいました。

さすがの私もどのようにして声を変えていいのか分からず、散乱している遺品を部屋の隅にまとめていたら、心配だけかけて親の意見も聞かずに、依頼主の父親が重たい口を開き、事の顛末を聞かせてくれました。

娘さんに対する優しさ

この部屋で亡くなられたのは、まだ成人式を向かえたばかりの娘さんで、家出同様に実家を飛び出したまま連絡が取れなくなっていたところに、警察から電話があって初めてここに住んでいることを知ったようで、母親はショックが大きく寝込んでしまい現場に出向く事が出来るような状態ではなかったようです。

死因としては、放火による焼死でして、布団で寝ているときに同棲していた男性に灯油をかけられ火を付けられたて娘さんは亡くなり、犯人の男は逮捕されたのですが、あまりにも悲惨な事件だけに、旦那さんに上手く声をかけることができなかったので、見積書を渡して、急いで返事は要りませんので、改めて連絡くださいと事務所に帰ろうとしたら、すぐにでもやってくれと罵声を浴びることになりました。

つまり、見積もりはどうでも良いので、ここで起きたことを早く消してしまいたいので、明日にでも処分してほしいということです。

感情的になってしまった事を謝りながら、娘さんの事をもう少し語ってくれて、毎年一緒に家族旅行に出かけるくらい母親思いの良い子だったのに、1年前にアルバイトを始めてから人が変ってしまい、家出をしたきり消息不明になってしまったとのこと。

翌日には、希望通りに遺品整理の作業をさせていただいたのですが、小さいころから大事に育ててきた娘さんですから、心底ご両親に恨みを持っていたとは思えませんし、父親が流した涙には、亡くなった娘さんに対する優しさが溢れていたように思います。