故人の兄弟の遺品整理

訪ねた部屋は留守のようで、手帳を取り出して住所を確認したのですが、番地も建物の名前も部屋番号も合っていたので、私は遺品整理の依頼をしてくれた葬儀社の担当者に電話したのですが、そんなことは無いという返事が返ってくるだけで、お兄さんが待っているはずだとのこと。

仕方がないので、前もって聞いていた依頼主のお兄さんに携帯に電話したのですが、電話に出た本人は今から飛行機に乗って帰るので、立ち会うことは出来ないため、大家さんにカギを開けて勝手に入って下さいと言われ、お金は振り込むので改めて連絡くれと、悪びれる様子もなく、私の意志とは裏腹に力が抜けてしまいました。

一応ご遺族に立ち会っていただくのが筋で、後から何かトラブルがあっても困るのでと、説得したのですが、貴重品はおそらく無いので全て処分してかまわないと言われてしまい、途中で私も説得するのを断念し、大家さんの立ち会いのもと部屋に入って行きました。

亡くなられたのは57歳の男性で、予想を上回る乱雑ぶりで異臭もすごく、山のように立ちはだかるゴミをかき分け、やっとの思い出部屋の中まで入ると、思わず足を止めてしまう状況に直面しました。

20年の想い

トイレのドアに大きな穴が開いており、何度も足でけって破れたものだと思うのですが、驚いたことに、その横にあった冷蔵庫には油性のマジックで忍耐と書かれていました。

今思えば、トイレのドアの穴と忍耐という文字は何の意味を表しているのだろうかと考えると、何か嫌な事があった日には、何かの代わりにトイレのドアを蹴り、何かから耐えしのいでいたのかもしれません。

大家さんの話を聞くと、亡くなられた方は20年も前からここに住んでいて、家賃の滞納なども無く良質なお客さんでまじめに働いていたとのことですが、3カ月くらい前から滞納が続いて連絡も取れなくなっていたので、部屋を見に来て死臭がすることに気が付き、警察が立ち会い、部屋に入ってみたところ布団で亡くなられているのを発見したようです。

死後、2ヵ月以上経っていて、亡くなられた人のお兄さんは、九州から出てきて警察と火葬場に駆け付けたのですが、弟さんが暮らしていた部屋には立ち寄ることも無く、大家さんに電話を1本入れただけで、自宅に飛行機で帰宅してしまったとのことでした。

いままで滞納していた家賃や葬儀社への支払は責任を持つと約束したのですが、一度くらい来てくれたら良いのにと心の中で思いました。

結果、その日のうちにお兄さんに連絡をし、翌日には部屋の片づけや遺品整理は完了したのですが、確かに貴重品は一切なく、年金手帳や印鑑などはまとめて、九州に住んでいるお兄さんに送ってあげました。

故人は20年という歳月をどのような思いで過ごされていたのでしょうか。